いきなりどうしたんですか？

それでコトラー？

誰だと思ってるんですか、経済学の父ですよ？
コトラー君なんて弟子の弟子のそのまた弟子くらいなものです。

何があったか知りませんが、まあいいでしょう。
ところで泉さん、その汚いルイ・ヴィトンの財布はいつ買ったんですか？

せっかくいい財布持ってるんですから、もうちょっと綺麗に使ったらどうですか？
何でもかんでも入れすぎなんですよ。パンパンじゃないですか。財布が泣いてますよ。

何ヶ月も？？

他にもいっぱい入ってますよね。

しょうがない人ですね・・まずは財布を整理しましょう。

それは後！早くしないと時間無くなりますよ。

ほら、こんなに薄くなった。

泉さん、あなたの目標はポイントカードコレクターですか？何ですか、所持金3,000円って。

時間が無くなっちゃうから本題に入りましょう。
あなた、なんでその財布買ったんですか？

必要って言いますけど、それを買う前にも財布は持ってましたよね？

それはいくらしたんですか？

その財布はどうしたんですか？壊れちゃったんですか？

じゃあ、新しい財布を買う必要は無いじゃないですか。

それが理由ですか？

なるほど。つまりあなたには「ニーズ」は無かったってことですね？

それは「ウォンツ」の方です。

あなたは、先程の質問の答えを自分で出してるんですよ。

世の中ではニーズを満たしなさい、ニーズを探しなさいって言われますが、
もう世の中にニーズなんてものは無いんです。

ありません。

いいですか、今はみんな「必要の無いものを買っている」んですよ。

だってあなたは15万円もするルイ・ヴィトンの財布を買ったじゃないですか。

それです。

社会人としてちゃんと見られたい。そのためにはいい財布が必要だ。
そうですね？

それは〈でっち上げ〉です。

じゃあ〈こじつけ〉です。

まだ気付かないんですか？あなたは今自分で言いましたよね。「欲しい理由がある」って。

そう、理由も無いのに高いものは買えない・・
裏を返せば「理由がありさえすれば、高いものは買える」ということなんです。

違います。それはニーズのフリをしたウォンツです。

はい、ぜんぜんニーズじゃありません。
膨れ上がったウォンツにニーズという服を着せたもの。
ニーズのきぐるみを着たウォンツ、それが正体です。

そんなものは最初から存在しません。だからでっち上げだと言ったのです。
あなたにはそもそもルイ・ヴィトンの財布を買う正当な理由なんて一つも無かったんですよ。
あなたは、年齢的にも収入的にも分不相応なことが分かっていながら、
それでもどうしてもルイ・ヴィトンの財布が欲しかった。
だから、「買ってもいい理由」をあなたの優秀な下僕、左脳君がわざわざ作ってくれたのです。
そう、全てはあなたのアタマの中だけで行われた自作自演だったのです！

・・・正解！

え、似てませんでした？

的を得てたでしょ？四字熟語をズバっと言うと決まりますね！

いいですか、本当に大事なのはここからです。

私がさっき何て言ったか覚えていますか？

そうです。よく覚えてましたね。

大丈夫、理由をでっち上げて必要の無いものを買っているのはあなただけじゃありませんから。というか全員そうですから。
生きるために必要なものはみんな既に持ってます。
消費というのは、〈強烈なウォンツ〉だけで成立しているのです。

そう、ウォンツだけです。
だから、理詰めで考えてもうまくいきません。
メリットとデメリットの分析で売ろうとすると失敗しますよ。

それは左脳君のお仕事です。
重要なのは、右脳君を刺激すること。
右脳君を活性化させ、それが欲しくてほしくてしょうがないというモードを作る。
メリット・デメリットというのは、その欲しい気持ちに「正当な理由」を与えるための材料に過ぎません。

おっと、もうこんな時間だ！今日の電話はここでおしまいです。
次回までにちゃんと考えておいて下さいね。